文庫栞マニア(No.4)1978年6月
1978(昭和53)年6月:角川文庫
角川文庫:山田正紀「神狩り」¥260

そのキッカケとなったのが、角川書店がマルチメディア構想として映画制作を開始した時に、話題になった作品→映画制作→文庫本を発売して売り出す→さらにその作家の他の作品も「フェア」として大量に発表しブームに仕立てる、という作戦を作り出した際のアイディア。
文庫本には「映画優待割引券」になる栞と、映画に関するお知らせリーフレットを挟み込む。もう本が好きな人にとっては否応なしに「映画やってまっせ」という情報を流し込まれてしまう。なんか見なくちゃいけないかのような気分にさせられてしまうのだ。
この栞は森村誠一の「野生の証明」の映画優待割引券になっていて、キャッチコピーは「NEVER GIVE UP」が使われ流行語になっている。
角川映画での有名なキャッチコピー『読んでから見るか、見てから読むか』はその前作「人間の証明」のテレビCMや雑誌広告で使われて、これも流行語になっている。
このコピーが連日のようにテレビCMで盛んに流し込まれることで「あぁぁぁ読まなくちゃ」「あぁぁぁ見なくちゃ」と純朴な田舎の中学生は強迫観念を植え付けられてしまい、とりあえず文庫本を購入して読んでしまったのだ。見事に角川春樹の術中にはまっていた。

が、ある時、出資をした松竹の映画「八つ墓村」が予定していた公開日までに完成せずに、すでに予定されていた「横溝正史フェア」がイマイチ盛り上がらずに失敗したという事があり、そこで角川春樹が「こんな事なら俺たちが映画作っちゃえばいいんだよ」という事でかの角川映画がスタートしたワケです。

それまで映画会社は「ライバルはテレビ」で映画のCMはあまり流していなかったのだが、角川はまったく関係なくバンバンとテレビで映画CMを流し、映画を見なくちゃ時代に乗り遅れるという感じに盛り上げたのだ。
えぇブームに乗せられやすい私は見事にこの時代に角川文庫で「犬神家の一族」を読み、その後立て続けに何作も横溝作品を読んでいますとも。

そんなこんなで基本的には本を売るためのフェアを開催するのが目的だった映画制作が徐々に大きな産業になっていった角川は、今回ネタにした「野生の証明」のヒロインを公募し薬師丸ひろ子という女優を誕生させている。
その後も大ヒット映画をバンバン量産させていくんだけど、80年代に入って「映画収入」「単行本・文庫本収入」ともうひとつ金脈を発見していく。
それが「ビデオ収入」なのだ。
当初は映画作品一本1万円以上していて、素人には手が出せない金額だったワケですが、マニアな人は手元に映画を残したい!というので購入していたり、さらに「レンタルビデオ」という物が誕生して(まだ貸し出しに関しての法整備が進んでいなかったけど)レンタルショップがヒット作は数本購入するという事でそれだけでもそこそこの本数いくということで「これも旨味多いよな」という事で、角川映画が暴挙に出てしまったのだ。
80年代のある時期、映画上映決定!と同時にビデオ予約開始!を始め、その映画の公開日にビデオも販売開始しちゃったのだ。
しかしこの暴挙は映画館側から「そんな事されると映画館に客が来なくなる」との猛反発され、映画上映からビデオ発売まで一定期間置くという事になった。
この角川映画の大成功は角川春樹という良くも悪くも風雲児によって成された物で、なんだかんだ言っても出版界での「○○フェア」という物を定着させ、映画界にもメディア戦略の方法論として多大な影響を及ぼしたという功績があるのだ。
そんなこんなで「野生の証明」、裏面は渡哲也のトマトジュースのCMになっている角川文庫の栞でやんす。(ついでにリーフレットにはピーター・フォンダ)
この『文庫栞マニア』前回は2006年7月27日だったので、1年以上ぶりなのだ。時々思い出したように栞を元ネタに色々語りたいと思う次第であります。
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