チコとビーグルス「帰り道は遠かった」
作詞.藤本義一/作曲.奥村英夫/編曲.寺岡真三
1968年12月/¥370
ビクターレコード/SV-785

物語には「巻き込まれ型」という形式が存在する。
主人公は至極真っ当な人物で何も間違った事はしていない(スケベだったり、山っ気があったりする場合もあるけど)、それまでごく普通の生活を送ってきた。そこにある日、ひょんな事から事件に巻き込まれ、意図しているワケでも無い方向へと押し流されていくというパターン。
例えば藤子不二雄のテレビシリーズになるような漫画はこのパターンが多い。さえない少年の所に万能だけど抜けている所もある未来のロボットが送り込まれてくる「ドラえもん」、他にも「怪物くん」「オバケのQ太郎」「ウメ星デンカ」などなどがそう。
もちろん、現実問題としてそんな異形の物体が実際に出現するワケではないけれど、その手の事件はよくある。
有名な所ではゴミだと思って拾ったら1億円だった大貫さんの事件とか、もう本人の意志とは関係無しにドラマの中に巻き込まれていってしまうのだ。
そんなこんなを実感しつつある。
まだ明確な事は言えないのですが、先月の中旬にいきなり静岡新聞社の年間を通しての企画に参加する事になり打合せをしたのですが(その話も自分が関知していない処ですでに進んでいて、断る事が出来ない状態でのスタート)、それとは別の話として打合せに出たついでに静岡放送(SBS)のラジオ「らぶらじ」に生出演することとなった。
午後1時に番組がスタートするのですが、その直前の昼食時に、SBSの社員食堂でアナウンサー小沼みのりんからいきなり「4月から始まる夕方のテレビ番組イブニングeyeの金曜日のコーナーを考えているんだけど」と杉村出演の企画を持ちかけられてしまったのだ。
持ちかけられてしまったという感じではなく「もうほぼ決定でそっちの方向で動いてるから出てよね、っつーか出ろ」という強制参加という感じで。
なんですとぉ!と思ったのですが、最近自分は「腹をくくる」というのを肝に銘じて日々を過ごしているので「お願いします」と了承したのだ。
それから約1ヶ月、その間も静岡新聞で始まる企画に関して原稿を書いたりしつつ、それなりに忙しく日々を過ごしていた。
やっと「原稿書き」というライターっぽい仕事が出来るようになった!と、別にラジオで毎日しゃべる事に不満があるワケではないのですが、子供の頃から文章が好きだった人間としては感無量だったワケです。やっとライター仕事がスタートしたのだ。この仕事を成功させて、ステップアップするための足がかりを作るのだ!
そんな中、先週の水曜日に静岡新聞社の担当さんからメールが送られてきた。そこには「月曜日にSBSで打合せがありますので、お越し下さいませ」と書かれていたのですが、出席者の名前の中に「小沼みのり」という名前もあって、文面を読み返してみると「SBSテレビでの展開も」という文字があったのだ。
うぬぬぬぬ、という事でなんとなく「マジっすか」と思いながら月曜日にSBSに出かける事となった。
「らぶらじ」の打合せ時間に到着し、打合せ終了後に小沼さんに話を聞くと「新聞の企画とテレビの企画がコラボして、その中心キャラとして杉村さんをフューチャーする事になりました」という衝撃的な事を言われたのだ。
なんですとぉ!自分はこれまで信条として『出来る限り目立たず波風立たないようにひっそりと』という事を標榜して生きてきた人間なのだ。さて困った。でもどうやら「YES,NO」の選択権は自分にはなく、すでに企画は90%組上がっており、しかもテレビの収録も切羽詰まっている状態らしい。
え〜い腹をくくれ→俺。
ラジオが終了したのは4時、その後ダラダラしつつ解散したのですが、打合せは夜の7時半から。小沼さんが月〜金曜日の帯で出演していている「イブニングeye」が終了するのが6時近くなので、その後テレビの打合せなどを終了させた後での、こっちの打合せ会議という事なのだ。
時間があるので、歩いていける距離だというので時間つぶしとして竪穴式住居が発掘&展示されている「登呂遺跡」を見学。
まだ時間が余っているので、ショッピングセンターAPITAでウロウロ。と、電気店のディスプレイTVで「イブニングeye」が放送されていて、たった今まで話をしていた小沼さんがキャスターとしてまったく別人のようなキャラで出演している。なんか変な感じなのだ。
と感じると同時に、この番組に近々出演する事になるのか、テレビの中の人になるのか……と全然想像出来ない事に巻き込まれている自分をリアルに考えられずに立ちつくしてしまったのだ。
7時半、SBSのスタジオで静岡新聞社の方と小沼さん、そして広告代理店の方が集い、番組の方向性や企画意図などを煮詰めていった。
自分はテレビ制作の現場なんてのは今までまったく知らない人間のですが、そこではいきなりこの先とりあえず1年間の取材スケジュール(どんなテーマでどこへ行く)などを自分が決めて、そこで語る話題も自分が原稿を書いて、自分で喋る。という事を託されてしまった。いいのか、こんな業界素人の人間がどんどん決めても(当然ダメ出しもあるだろうけど)。
で、最重要事項としては出演に際して自分の衣装という物がすでに決まっていたのですが…、それはまだここでは書けないトップシークレットなのですが「マジッスか」という物。おそらく自分の地味なキャラとは対局に位置するような衣装かもしれない。というか「衣装」と呼んでいいのか? という状態なのだ。
この2年間、ラジオを通して築き上げてきた「うんちくの人・杉村」というイメージを粉砕してしまいかねない衣装なのだ。自分もそんなカッコはした事がない。
え〜い腹をくくれ→俺。
内容自体は、ラジオの「うんちく劇場」のテレビ版みたいな感じにはなると思うんですが、その淡々とした内容を打ち消すようなビジュアルが展開される事となるのだ。
ということで、これから毎週木曜日に収録として静岡県内を飛び回る事になります。と言っても、その取材日記を書き残したいと思うけれど、放送の関係もあって(木曜収録で放送は翌週の金曜)色々とタイムラグが発生すると思います。
でも、見事なほどの「巻き込まれ型」の人生だなあ。
打合せは9時半頃までかかり、その後、アナウンス室にいた國本さんに挨拶&報告。現在の自分があるのは國本さんのお陰なので感謝しきれないほど感謝しております。そういう意味でも、今回の話は成功させなくてはいけないのだ。
ということで、静岡駅まで送ってもらい帰途についた。
と言う所で本日の話が終わるハズだったのだが、どうしようもない自分は変な形で物語を展開させてしまうのだ。
朝、三島駅近くの駐車場に車を停め、新幹線で静岡駅に来ていたのですが、その駐車場は夜の11時50分までの営業となっていた。とりあえず時計を見ると時間は10時をちょっと回った処で、三島まで約20分なので充分余裕あるなと気が楽になり、本日のデッカイ話に「ついに来ましたか、俺様の時代が」などとちょっぴり慢心してみたりもするのだ。
ふと見ると「東京行き、22時10分発」という表示板が目に付いたので、おぉジャストタイミング、やっぱ上手く行っている時は何もかも上手く行くんだな、待ち時間無しジャン!と階段をトトトットと駆け上がり、ちょうどホームに滑り込んできた新幹線に颯爽と飛び乗ったのだ。
しかも2人掛けの席がちょうど空いている。
何もかも順調、こりゃ幸先いいねえ、と座り込んで行きの時に読みかけていた文庫本を読み始めた。
高田崇史著『試験に出るパズル』という推理小説なのだ。『QEDシリーズ』の作者による連作理数系推理小説なのだ。(NHKでドラマ化された『Q.E.D. 証明終了』の原作だと思っていたのですが、そちらの作者は加藤元浩さんだとコメントで教えて貰いました。ありがとうございます)
思わずぐぐぐーっとのめり込んで読んでいたのだが、ふっと気が付くと時計の針が10時40分を指していた。え?静岡から三島駅って20分ぐらいのハズだったのに…。
という処で瞬時に自分が置かれている状況を把握して、ザーッと顔面蒼白、血の気が引いていくのを感じた。もう、顔から血が引いていく音が太ゴシック60級で背後に描かれているのを感じ取ってしまったのだ。
つまり今自分が乗っている新幹線は三島に止まらないで東京駅まで直行って事?
で、今ここはどこら辺を走っているんだ? と思って窓の外を見ても真っ暗闇にどこなのか解らない街灯り。時折、どこかの駅を通過するのだが、駅名を確認できないスピードで通り過ぎる。
このまま東京駅までノンストップだったら、おそらく東京駅には11時10分前後に到着する計算になる。そこで丁度折り返しの下り新幹線が存在していたとしても、三島駅の駐車場が閉まってしまう11時50分までにたどり着けるのだろうか。それ以前に、この新幹線が最終で東京駅から下りの新幹線が無い場合は東京駅で野宿をしなければいけないという事なのか。あるいは運良く三島駅に辿り付いたとしても、駐車場が閉まっていた場合は翌朝の営業再開まで三島駅周辺で野宿なのか。いや三島駅まで辿り付けば、金がかかるけれどタクシーで帰るという選択肢もある。そうだ、東京駅まで辿り付ければ、新橋に住んでいる友達の処に転がり込むという手もあるじゃないか、と思ったけれど運悪く、新橋に住んでいる友達はつい先日引っ越しをしてしまいハッキリ住所を把握していないのだ、さてどうしよう。
などと改行する余裕もなく、脇汗をジットリとかきながら脳みそをフル回転させていた。
もっとも、どう考えようとも現状を脱出する手段はないのだ。大昔どっかの代議士がいきなり地元に立ち寄りたいという事から新幹線を途中で止めたという事件があったけれど、そんな事は到底できないのだ。
と思っていた処で10時50分頃、新幹線が減速を始めた。そして車内アナウンスが「新横浜、新横浜に停車いたします。この先、当車両は品川、東京駅に停車いたします。次は新横浜」と言いだした。
新横浜か!えっと、現在が10時50分。静岡駅からここまでが40分。ということは、静岡〜三島間が約20分なので、新横浜から三島までが少なくとも20〜30分という事になる。てぇ事は11時50分までに三島駅に到着するためには11時20分までに下り新幹線があればなんとかなる!
とむりやり楽観的な計算をして、まだ減速中だが席を立ちあがりスタンバイし、ドアが開くと同時に下りホームへと猛ダッシュをしたのだ。
新横浜と言えども11時間近の新幹線ホームは閑散としていた。今日は昼間ちょっと暑いなぁと思っていたけれど、それなりに厚着をしていて良かった。
ふと頭上の掲示板を見上げるとそこには、神が降りてきたかの如く、祈りが通じたかのような文字『23時06分発、三島行き』と書かれていた。
おぉ神よ、こんな無信仰者の私にも救いの手をさしのべてくれるのですね。あぁ感謝します。アーメンソーメン冷ソーメン。もしこの場に宗教勧誘者が出現したら思わず入信してしまいそうな勢いで安堵したのだ。
詳しい時刻表をチェックするとその23時06分の新幹線が本日の最終新幹線で、三島着が23時39分となっていた。という処で「そりゃそうだよな」と思う結論に行き着いた。
三島駅の駐車場が閉まる時間ってのは当然のことながら電車の時間とリンクしているのだから、最終電車が到着して数分後って事なんだろうな。
いやぁ勉強になった。
その新横浜駅で最終新幹線三島駅行きを待ちながら思わず心の中でチコとビーグルスが歌っていた「帰り道は遠かった」を口ずさんでしまうのだ。
帰り道は遠かった、来た時よりも遠かった♪
あぁそう言えばこの曲、幼少の頃に聞いてからずっと頭の中に残っていたんだけどピンキーとキラーズの曲だと記憶違いしていたんだよなぁ。ピンキラのベスト盤を聞いてもこの曲が入っていなかったので何故なんだろうと思っていたっす。
帰り道は遠かった、来た時よりも遠かった♪
好事魔多し、慢心せずに慎重に精進せよ→俺
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帰り道は遠かった」
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