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2007年8月14日 (火)

反「阿久悠」的

作詞家の阿久悠が8月1日に亡くなった。
色々書きたい事があったけれど、その思いは複雑すぎて、そして大量すぎて書き始めるのを躊躇して今に至ってしまった。


00aku00その突然の死を伝えるTVニュース、ワイドショーをいくつか見た。
その中では判を押したかのように「偉大なる作詞家」「昭和歌謡史を作り上げてきた巨人」みたいな扱いをしていて、その早すぎる死を残念がっていた。
きっと、自分もその現場にいたらそれに乗っかったように「えぇそうですね、自分なんか物心付いた時から阿久悠さんの詩があって、色々なキラキラ輝く万華鏡のような世界を楽しませてもらいました」なんて事を語り、それなりに残念がってみせたかも知れない。
確かに「色々な世界を疑似体験させてもらった」という感じはウソではない。

堺正章「街の灯り」
00aku02でも実際の事を言うと、阿久悠の生前、自分は歌謡曲の話題を友人と語る時、阿久悠という名前が出てくると決まって「なんか阿久悠の詩ってさ現実感がないんだよね、男とか女とか人生観を語ったりするんだけど、なんか紋切り型で生身って感じがしないので、どうも好きじゃない」みたいな事を語っていた。そう、自分は阿久悠という作詞家をあまり評価していなかったのだ。
と言いつつその凄さはもちろん知っている。

ピンクレディ「UFO」1977年
00aku01かのピンクレディなんてのは、自分が一番生意気な中学生時代にブームが始まっていて、初恋の相手だった女の子が放課後、教室の隅で友達と踊りをレッスンしていたのをジットリと横目で見ていた記憶もある。
その異空間ともいうべき歌詞の内容は、阿久悠でしか作り上げる事が出来ない世界だったのかも知れないと、実際には思っている。
以前、書いた「ピンクレディ・フォロワー」という話での「キャッツアイ」とか「キューピッド」なんかの歌詞があまりにも現実を引きずったドロドロした恋愛物だった事を考えてみると、あのカラッとした非現実的な阿久悠の凄さは実感できる。

岩崎宏美「ロマンス」
00aku06しかし、当時の自分はその阿久悠の「リアリティの無い世界観」というのが大嫌いだった。
多くの人が阿久悠の詩に「リアリティを感じない」と言わないと思うけれど、中学から高校時代ってのはちょうど自分で作詞作曲をはじめた時期だというのもあったり、作詞家で一番好きだったのは現実的な学生生活の描写などが得意だった松本隆だった事もあって、自分の中で阿久悠の詩はすごく人工的な気がしちゃったのだ。

石野真子「日曜日はストレンジャー」
00aku08世間の評価としての阿久悠は「心に染みる詩をたくさん書いてきた」という部分が多いような気がするけれど、自分の中では「リアリティの無い、紋切り型の詩を書く人」というマイナス評価が大きかった。
それはピンクレディだけじゃなく、沢田研二の一連のヒット曲「時のすぎゆくままに」「勝手にしやがれ」「ダーリング」「カサブランカダンディ」などでも、ダイレクトに心に響く言葉が饒舌すぎるほど羅列されていて、作品としてあまりにも完成度が高いって事が嫌だったんだろうなと、今さら感じている。(あと「男は」とか「女は」という紋切り型の定義も嫌いだった)
そこで語られる話が出来すぎているのだ。

山本リンダ「狙いうち」
00aku07今考えてみると阿久悠の特徴は「わかりやすさ」と同時に「強引さ」だったのかも知れない。
70年代の歌謡曲はフルコーラス3分以内という物が多く、イントロも短く、歌もいきなり始まり、いきなりサビに入るという展開が多かった。そのために当然の事ながら瞬時にして聞いている人をその歌詞の世界に引きずり込まなくてはいかけないのだ。
岩崎宏美の「あなたお願いよ、席を立たないで」という出だしも、石野真子の「あなたも狼に変わりますか?」という出だしも、桜田淳子の「ようこそここへクッククック〜」という出だしも、実によく出来た歌い出し。
あまりにもキャッチーすぎる。実に考えられている。
この強引さが嫌いなのに引きつけられるという、二律背反的な部分が自分の中では必要以上に「阿久悠のヤツめぇ」と思った部分だったのかも知れない。

桜田淳子「十七の夏」
00aku09先日、浜松での公開生放送の時、本番直前の前フリみたいな状態で静岡限定アイドル「オレンチェ」という中高生アイドルグループがピンクレディなどの曲を歌い踊っていた。
「オットコは狼なのッよ〜気ぃをつけなさッい〜♪」と。
それをぼーっと聞いていて、あぁここが凄いのかぁと思ったのは、リアルではないってのは「時代を超える」って事なのだなぁという事なのだ。
改めて聞いてみると、ピンクレディの曲の中には、古くなった単語がほとんど見あたらないのだ。今、現役の中高生が歌詞を見ても「古い」と感じる要素があまりなんじゃないかと思う。
それに比べて、松本隆を始めとしたリアルを追求していた歌詞は、そこはかとなく言葉選びや小道具に時代性が出てきて、どう聞いても「70年代ぽい・80年代っぽい」という印象を受けてしまう。
そこが阿久悠に対して感じていた「嫌い」だったんだろうなぁと改めて感じる。
阿久悠が亡くなった後に「時代を切り取った」という表現をしていた文章もあったけれど、阿久悠は時代を切りとったのではなく、時代を制したんだと。

フィンガー5「恋のダイヤル6400」
00aku0580年代、ちょいとしたことで自分が書いた詩を当時ビクターのディレクターだった飯田久彦さんに見てもらった事があった。
この飯田さんは元ロカビリー歌手で70年代はピンクレディなどを担当していた人で、当時はサザンオールスターズとか小泉今日子とか松本伊代とかを担当しており、その後SMAPや河村隆一も担当し、その後テイチクの社長に就任し、そこでいきなりインディーズ演歌だった大泉逸郎に目をつけ「孫」をヒットさせ、現在はテイチクの会長にまでなっている。ちなみにサザンの「チャコの海岸物語」で歌われているチャコとは飯田久彦のニックネームなのだ。
そこで飯田さんに「全体の流れの中で詩を作るのではなく、その一瞬一瞬で耳に記録される言葉を書いてほしい」「全体構造は矛盾していても、キャッチーな言葉だけが残るような仕掛けが歌謡曲には必要だ」みたいな事を言われた。
もっとも自分はどっちかというと青臭い文学青年的部分もあったので「音楽の詩と言えどもそれは1編の短編小説のような物で、その構造の積み重ねですべての言葉に意味が生じてくるのだ!」と実際には言わなかったけれど、心の中で反発的に感じていた部分があった。
でも、歌謡曲ってのは結局そうなんだよなぁとも実際には思っていた。
その「キャッチーさ」を違和感なく前面に出せていたのが阿久悠なんだろうなぁ。そして、その阿久悠の「わかりやすさ」がどうも文系の自分には苦手だったのかも知れない。

クックニック&チャッキー「可愛いひとよ」
00aku10キャッチーさでいうと「意味がないが実はキャッチー」という手法も生み出していて、フィンガー5の時に「♪リンリンリリンリリリリリリン」というスキャット変形ワザを繰り出して当時の小学生をメロメロにしておりました。
同じような時期にピンポンパン体操で「ズズズズンズズズズン、ピンポンパポーン♪」とか、山本リンダで「ウララ、ウララ、ウラウラで♪」とか、郷ひろみ樹木希林で「フニフニフニフニフニフ〜ニ〜♪」という無意味な擬音のしつこいまでのリピートを多用し、単純な繰り返しが大好きな子供は洗脳されておりました。
もっとも、自分の場合はこまっしゃくれていたので、ピンクレディ「渚のシンドバッド」の出だしの「アアアアァ〜アアアアァ〜アアアアァ〜♪」というのを聞いて「これって郷ひろみの誘われてフラメンコだよな」などと言っておりましたが。(こっちの作詞は橋本淳)

郷ひろみ&樹木希林「林檎殺人事件」
00aku04阿久悠が嫌いだった。という前提で書いているわけですが、書けば書くほど自分がかなりドップリ阿久悠の世界に浸ってここまで来ていると言うを再確認してしまうのも事実。
もちろん、阿久悠という人物が書いてきた詩のバックボーンは、作詞家から作家へシフトした以降に著した「歌謡曲の時代」「愛すべき名歌たち」「なせか売れなかったが愛しい歌(これはWebで読むこと出来ます)」などに書かれていて、その作詞家としての才能の突出した部分だけじゃなく、内面的な部分も窺うことが出来、子供心に「嫌い」と思ったのはかなりお門違いな部分だというのも分かっている。
嫌いだと言っている阿久悠の本をそんだけ読んでいるんだから、嫌いなハズはないし、未だにi Podに入っている70年代歌謡に阿久悠作もかなり含まれているワケで、実際嫌いじゃないだろうと自分でも薄々思っている(薄々じゃないよなぁ)。

ザ・タイガース「色つきの女でいてくれよ」
00aku03それはきっと、ひねくれた性格の自分にとって「あまりにも直球で剛速球の阿久悠」は認めちゃいけないほど大きすぎる存在なんだと思う。
自分が書いていた詩はどちらかというと「文化系」で、阿久悠の詩は「体育会系」なんだよな。
なんだか書けば書くほどまとまりがない文章になってしまう。こんなにまとまりがない文章になってしまったのも久々という感じ。
それだけでっかすぎる存在なのだなぁ と亡くなってみて再確認。

あべ静江「コーヒーショップで」
00aku11阿久悠以降の「非阿久悠的作詞」の、最初の完成形は松本隆周辺だったと思う。
歌謡界に大きく君臨していた阿久悠的作詞世界に反旗を翻し、文学的な心象風景を描き出そうとしていた作詞世界って、もしかしたら西遊記の孫悟空のように「阿久悠の手のひらの中でもがいていただけ」なのではないか? と思ってしまうほど、阿久悠の世界は懐が深いのではないかと、今さら感じているのだ。

うーむ、書けば書くほどドつぼにはまってしまいます。

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コメント

お邪魔します。
錯綜されるご感慨、拝読しました。仰せの通り、優れた面を認知しないお相手に、反感などは持ちません。


しかし、「フニフニ」が子供に受けた?それは初耳です。郷さん人気の勢いだけで(それ相応に)売れた楽曲であり、
実際に購入されていた主な年齢層は、20代も半ば以上ですから、新鮮な異説を恐れ入りました。


それでは、益々のご活躍をお祈り申し上げ失礼致します。

投稿: 浮雲 | 2007年8月18日 (土) 04時25分

フニフニの林檎殺人事件、今調べたら1978年の曲ですね。
自分はその頃、10歳だったんですけど、
クラスでよく友達なんかと歌ったり踊ったりしてましたよ。
おばけのロックンロールがその前の年で
ちょうどピンクレディのブームと同時期で
とにかくみんなでワイワイと踊り歌った記憶があります。
もちろんベストテンに出た時なんかも翌日その話をした記憶もあります。

郷さん人気じゃなく、水曜劇場人気が大きかったんじゃないでしょうか?
実際に購入した世代じゃなかったのかもしれませんが
子供の間では凄く人気がありましたよ。

投稿: ともち | 2007年8月18日 (土) 07時52分

1976〜77年当時の郷さんは、ちょっと人気が低迷した時期だったと記憶しています。
人気低迷といってもテレビの露出は多かったのですが、ちょうどジャニーズ事務所から移籍したり、高校を5年かけて卒業後、大学に入学したりした時期です。
楽曲も1976年11月発売の「寒い夜明け」から「真夜中のヒーロー」「悲しきメモリー」「洪水の前」と、それ以前の曲に比べてヒットしない曲が続いた所で、1977年9月の樹木希林とのデュオ曲「お化けのロック」に続きます。
この曲でそれまでの女性ファンから子供まで広い人気を獲得し、続いて発売されたシングル「禁猟区」「バイブレーション」でジャニーズ事務所時代と同じような人気が戻ってきました(しかもそれまでの可愛いアイドルのイメージから、大人のイメージへの脱却に成功)
そのタイミングで1978年6月に郷ひろみ&樹木希林の第二弾「林檎殺人事件」が発売されてヒットしたワケです。
タイミング的に、1978年1月にTBSで「ザ・ベストテン」が始まったばかりということもあって、お茶の間にもの凄くアピールした曲でした。
だから「郷さん人気の勢いだけで」と言うことはなく、ドラマ&ザ・ベストテンの相乗効果、そしてコミカルな面が前面に出たということで、従来のアイドル郷ひろみ人気ではなく幅広くアピールした曲だったハズですよ。
「新鮮な異説を恐れ入りました。」というのもちょっとイヤミな書き方ですね。

知泉さんの『知泉的音楽夜話』シリーズを毎回楽しみにしています。
これからもゆったりと頑張って下さい。

投稿: 漣梧郎 | 2007年8月18日 (土) 09時53分

歌謡曲通の方は凄いですね。諸々お教え頂き、本当に有難うございました。

おっと…遺憾ながら、嫌味な人間には、これすら、イヤミに聞こえるものなのでしょうね。

投稿: 浮雲 | 2007年8月19日 (日) 03時59分

浮雲さん、別に漣梧郎さんは嫌味な事を書いているワケじゃないですよ。

投稿: | 2007年8月19日 (日) 11時00分

芳名がございませで、判りませんが、知泉さんご当人様でしょうか?

初めまして、お邪魔しています。


いえ、唐突に「新鮮な異説」と持って来た訳ではなく、「初耳」との語句を前文に入れており、“失礼にはあたら無いであろう”との判断から使った言葉で、それを『イヤミ』と言われては、こちらも上機嫌とは参りませんで、ご迷惑をお掛けしました。


また、序となり申し訳ございませんが、『水曜劇場人気』に付いても、確かに「寺内貫太郎一家」なら、それなりの数字は取れておりましたが、「ムー一族」は大して取れていません。
併せて、郷さんの堀越生活は5年では無く、4年と記憶しております。


それでは、新参者の長逗留をお詫び申し上げ失礼致します。

投稿: | 2007年8月19日 (日) 18時10分

5年も前の書き込みにレスもなんだと思うけど
浮雲という人のように無意識なのか知らないけど
上から目線で他人をイラッとさせる文章を書ける
人ってのもいるんだなと感心した。
慇懃無礼のサンプルみたいな文章。

こういうバカが色々な所で平気で嫌な事を書いて
その結果、ブログを辞めてしまう人も出てくるんだよね。

(このブログも止まっていますが)

投稿: ザザエさん | 2012年11月 2日 (金) 11時46分

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