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2006年3月26日 (日)

ヅラといつまでも

※この超長文はたぶん1991年頃に書いた文章でやんす。ひょんな事から発掘されたので再録。その経緯に関しては翌日の雑記にて
●男の悩み●
男ばっかが何故こんなに悩まなくてはいけないんだぁぁ!男達が何を悪いことをしたのだぁぁ!おぉぉぉと嘆いたり、およよよよと泣き崩れたり、うひょひょひょと危機感を抱かなくてはならない問題に「頭髪」ってのがあったりする。
専門用語で言うところの「ハゲ」なんですが、これは男の悩みの中でトップクラスに位置する事なんじゃないかな。「俺、もしかしたら将来ハゲないか?」と悩んだり「ちょっと薄くなってきたんじゃねぇのか?やべぇなぁ」とか「俺ンち、親父もそーなんだよ、遺伝の事を考えると夜も眠れなくて寝不足のせいで毛が抜けそうだぜ」とか、男なら誰だって悩んだ事があると思う。
みなさん、ありますよね。悩んだ事がない人がいたら手をあげなさい。そうですか、判りました。そーゆー人はあっち行ってなさい。関係ないから。


毛ってヤツは、あるのと無いのとでは、とにかく人相がガラッと変わってしまう場合があったりするんですよね。
かつて、かの初代ジェームスボンドでおなじみのショーンコネリーが日本のCMに出たときはビックリしましたよ。たしか乳酸飲料かなんかのCMで(何故そんな仕事を?)ウサギのぬいぐるみと一緒に「ビヨビヨビヨグ〜ル!」とかって歌うヤツがあったが(何故?何故そんな仕事を?)その時のコネリーったら映画で見るボンド役のコネリーとは、まったく違う人だった。
それまで噂では聞いていたが、すっかり風通しのいいヘアスタイルで出てきたんですよ。それも「ビヨビヨビヨグ〜ル!」とか歌いながら。
私ゃたまげましたよ、そのCMの内容ともども。
映画の中でカツラをかぶっているのは、あくまでも役作りの為だったワケで、普段は開けっ広げで風通しのいいコネリー君だったのだ。しかし普通の生活の中で、カツラをしている人っていうのはあくまでも奥ゆかしくて「ボクちゃんカツラだよ〜ん」とか宣言をせずに、じっと蒸れるのにまかせていたりするのだ。

「俺は地道に縁の下の力持ちとしてご主人様の弱点をおぎなっていくのだ!」とか、まるで大和撫子のように「3歩下がってハゲを隠す」と言う人生を、ひっそりつつましやかに歩んでいるのだ。
だが、本人は気づかれていないと思い「ふふふ〜ん」とかしているのだが、他人から見るとなぁんか不自然だったりするのだよ。それが、たとえば完璧なツルリン君でどこを取ってもカツラ状態だったら気が付かないパターンもあるかもしれない。だが、多くの場合が現存している頭髪と擬装用の頭髪が渾然一体となり、激しい責めぎ合いを、バトルを繰り広げていたりする為に、実際の髪の毛との差異がどことなく漂ってしまうのだよん。

たとえCMで「水洗いが出来る!」と叫びながら力強く藤巻潤が海から上がってきてシャンプーを始めようとも、「俺は役者馬鹿だ!」と藤岡弘がヘリコプターの強風に煽られながら笑っていても、普通の何も事件が起こらない生活の中で、ただ太陽光線の下に出てしまうと素直に「世間の目はごまかせても、おてんとう様の目はあざむけねぇぜ!」状態になってしまったりする。微妙に光り具合が違ったりするのだ。

でも、誰も「あんたカツラでしょ?」とは言わない。言えない。暗黙の了解の中で時間は過ぎていく。みんな大人だから。その点、子供は馬鹿だからカツラだと判った途端に大声で「カツラだ!」と言うかもしれない。
だが、子供はさらに馬鹿なのでカツラを見破れない。これで世間はとりあえず丸く収まっているのだ。でも、本当にカツラがバレバレの人が身近にいたりすると精神衛生上キツい物があります。意識しない様に、意識しないように、と過大な意識をしている為についつい視線がそっちに泳いでいってしまうのです。
●ある日突然●
実はボクが勤めている会社にも、逃げも隠れもしない(隠しはしてるが)カツラさんがいたりするのです。これがバレバレ。と言うのも当たり前で、彼は23歳ぐらいの時点で完全に顔半分前に頭髪が無いぞ状態だった。それを前髪を前面に送った状態でとりあえず隠していたのだが、元々髪の毛が豊富にあるワケでないので全体にぺったりとして、世間一般でジャンル分けされれば素直に「ハゲ」と言われる人だった。

その人が、密かに「カツラな人生を歩もう」と決意したのだな。
しかし普通だったら「8段階マープ増毛法」とか言って、気づいたときにはあ〜ら不思議みたいな感じで増えていくパターンを選ぶのだろうが、この人の決心は半端ではなかった。ある日の月曜日の朝、突然60%増量!値段据え置き!!(当社比)みたいな感じでどどーんと髪の毛が増えて、まったくの別の人になっちゃっていたのだ。
本人は「やったぜ!」みたいな顔つきで堂々と自分の席に座っていたのだが、困ってしまったのが周りの人々。どー対応していいのやら、悪いのやら。しだいにその人も周りの視線を意識し始めて、仕事中も周囲をチラチラ観察して落ちつきがなくなっちゃってんの。困った。

僕はその人とは席が離れていたのだが、仕事の関係でどうしても会話しなければならない時があったのだが、向こうが僕に仕事の説明にきた時なんか「ここをこうして、この図形が前面に・・・」などと向こうが机に置いた指定紙を指さして説明している時に、ついつい覗き込むようにしてしげしげと頭部を見てしまったりした。悪いとは思うが「おぉ、そうかそうか、これが噂のあれか。やっぱツヤが違うな。うんうん」とか観察してしまったりするのだ。
ある日、パートのおばさんが2人、彼にまったくない関係ない話を、たまたま彼の方に向かって笑いながらしていたところ、突然!彼が怒り始めて「こっちを見ながら笑った!」とか、言い出したんですよ。それ以前は実に大人しい青年だったんですが、あの日を堺に突然いちゃもんを付ける挙動不審の人間になってしまった。

ある日、僕が仕事でマックを使って地図を書いていた時のこと、その地図の指定に書かれていた店の名前がファックスで届いた原稿の為か読み難くなっていたのだ。ちっちゃな字で書かれていて潰れちゃっているのと、ゴミにないな物も点々とあったもんで。その店の名前が「ハゲーラ」なのか「パゲーラ」なのか判別できない。
それの担当者というのが運悪く、例のカツラ君だったのですよ。でも仕事だもんなぁ。聞かない訳にもいかないしなぁ。と、意を決して行ったのだ。
「すいませ〜ん、この店名の字なんだけどパゲかバゲか判らないんすけどぉ」よりによって、そんな聞き方ないだろ?みたいな感じで聞いてしまったのだ。彼はその私が差し出した紙を「チラ」と見ると顔も上げずに「ハゲーラ」と一言。すまんすまん。

そんなに気になるんならナチュラルになれよ。と言いたくなってしまった。いぜん、別の所で某氏に親切心で後ろの髪の毛がちょんとハネていたので「ねぇ髪の毛ハネてるよ」と教えてあげたのだが、「ハゲてる」と聞き間違えたらしく、日頃から薄いのを気にしていた某氏は大声で「判ってるよ!」と言い放ちその場を立ち去るというのもありました。

ニュースで聞いたのでは、生徒に人気があってみんなでワイワイやるのが好きな先生がいて、いつもの様に授業中にギャグを飛ばしていた時、一人の生徒がそんなに深い意味もなく「ハゲ」と言ってしまったのに逆上し、そこにあった椅子を生徒めがけて振り下ろした。っていうとんでもない事件もあったしな。
それぞれ心に傷をもって生きている。

●悲劇は唐突に訪れる●
実を言うと杉村も「ハゲ」経験者なのです。確かに中学ぐらいの頃から「杉村は髪の毛が細くて軟らかいから、将来絶対にハゲるよな」と友人にも言われ続けていて、けっこう自覚してました。ずっと危惧していましたよ。本当に「猫ッ毛」というヤツで、ムースなんかを付けないとフワフワしちゃって、これならいつ抜けてもおかしくない。と言う感じだったんで。
ところがどーだい!それから15年以上経っているけど、未だに健在だぞ。白髪は増えたけどさ。同窓会とか行くと密かに「ふふふ勝った」とか思ってしまうのだぞ。

それは、ある秋の日の出来事だった。前日からやけに熱っぽくて、とうとう我慢できなくなりその日は会社を休んで水マクラをして寝ていた。いつまでも熱は下がらず、ぼぅとした意識の中で水マクラの冷たさに身を委ねていた。
その時、頭を水マクラ上でウリウリと移動し続けていくと1つの最高に冷たさを感じるポイントを発見したのだ。「おぉこれは!」これが冷たさのツボに違いない!そうに違いない。そうだそうだ!僕もそうだと思います。賛成賛成。一同賛成の声。と、熱でうなされながらぼんやりと考えていた。

・・・・ふと変な胸騒ぎがした。なんか異様に冷たさをダイレクトに感じているんじゃないか?頭に当てていると言うより、肌に直接水マクラを当てているような冷たさじゃないか?おそるおそる、僕はその冷たさを一番感じるポイントに手を伸ばしてみた。

無い。

無いのである。


そこには普通なら、通常の人間ならばツムジってヤツが存在して、髪の毛がグリグリと渦をまいている場所なのだ。確かに毛は生えている。が、ほとんど地肌のような手触りなのだ。僕はあわてて起きあがり洗面所へと走った。そこにあった2枚の鏡を使って、なんとかそのツムジ周辺を写した所、驚愕すべき事実にぶち当たってしまった。
「ハ・・・ハゲてる!」ががーん!!
そうなのです。そのツムジ周辺がツムジと名付けるにはあまりにも過疎化され、肌色になりつつあったのです。こ、こりゃいったい?

で、よく考え直した所、最近いろいろと私生活上で事件があって少し疲れ気味だったのですよ。考えすぎたり頭を使って。きっと神経的なものに違いない。そうに違いない。そうだそうだ!僕もそうだと思います。賛成賛成。一同賛成の声。と無理矢理、自分に言い聞かせた。そうじゃなくてナチュラルな物だなんて考えたくなかった。
確かにヘビーな毎日を過ごしたせいで、少し前から胃潰瘍ぎみで、ついこないだも胃カメラを飲んだばかりだった。最初、胃方面がジクジク痛むので医者に行った処「胃潰瘍かもしれませんね」と言うことになって、ヨーグルト味のバリウムを飲んだりしたのだが、ハッキリしたことは判らなかった。と言うので、胃カメラを飲むと言うことになったのだ。

胃カメラってこのときが初体験でちょっぴり期待と不安。ちょっぴりぃ恐いんですけどぉ、痛いのは最初だけって彼が言うんですぅ。と好奇心に震える乙女のような面もちで胃カメラに望んだ。たしかに口から物をグニグニ入れて行くって言うのはまともな状況じゃないっす。歯医者にいって奥歯をいじられただけで「オエッ」となってしまうのに、さらに奧まで物を突っ込むわけですよ。苦しくないワケがない。
しかし問題は苦しいだけではなかった。の中にカメラが到着した後は、苦しいのは収まるのだが、胃の中に異物
が入っているという感覚があり、さらにカメラが胃潰瘍の部分を探し出すために胃の中でカメラの首部分がキョロキョロ動くんですよ。その感覚も当然伝わってきている。
これって、たとえるならば「今まさに胃の中からエイリアン腹をつきやぶって飛び出す」その直前って感じ。凄くイヤな感じがする。もう二度と経験したくないって感じ。

ま、そんなこんなもあって、このハゲはきっと精神的な物に違いない。と、確信したものの、日常の生活の中でどーしたらいいものかと考えたのです。まだ「俺ってサー。ハゲてんだぜー!」と笑いを取るまで人生を達観して
いない。往生際が悪いのである。

以前、友人と「将来ハゲはじめたらどーする?」みたいな話をした事があったが、その時に杉村はこう断言した。
「ハゲちゃったら変に隠そうとして、スダレとかにしちゃうのって惨めでしょ。そーなったら俺は全部、剃っちゃうもんね!ユルブリンナーな人生を歩んじゃうもんね!」と、実に力強く宣言していた。
人間とは弱い生き物である。

そこで、取りあえず現状を打破する手段はないか!と自問自答の末に導き出した答えが「毛生え薬」ってヤツを購入するのだ!と言う結論だった。

●良心的な店を探せ!●
まさか自分の人生の中で、そんな物を購入する事態に直面するとは、ついさっきまで思いも付かなかっただけに、薬局に行くのにさえ勇気が必要だった。
最近、スーパー形式のやけに巨大で明るくて品揃えが豊富なチェーンの薬局が増えてきたが、その手の店は今回はパスすることにした。いわゆる「毛生え薬」を購入するには明るすぎるのだ。私の場合まだとりあえず上から覗き込まないかぎりは薄いって事も気づかれないような状況なので、なるべく誰にも知られずに購入する作戦を考えていたのだ。

もし、この手の店で「毛生え薬」と言う、特殊な薬を手に持った瞬間から、誰の目にも一目瞭然「この人はハゲで悩んでいる」と言うのが白日の下にさらされてしまうのだ。客が多い分、知り合いに会う確立も高い。私は本当にそこまで人生を達観していない。さらに、この手の薬局はレジ係が若いお姉ちゃんと言うパターンも多い。
別に犯罪を犯しているワケでもないし、ここで薬局のお姉ちゃんにハゲと言うがばれたって、人生に支障をきたすワケでもない。向こうだって仕事だ。色々な客が来る。わざわざ「ねぇねぇあの人毛生え薬買ったのよ」などと同僚に報告しないのも判っている。だが、そのお姉ちゃんにでさえ杉村のちっちゃなハートを痛めているささやかな悩みをしられたくないのだ。

ふと、この毛生え薬を購入する。と言う行為が別の物を購入する場合と類似しているのに気が付いた。かつてスネークマンショーと言うのでネタにされた「コンドーム購入」に類似しているのだ。
しかし、コンドーさんの場合はいざって言うときには自動販売機って言う強い味方があったりする。真夜中、いざって時にでも買える自動販売機。ちっちゃな子供だって買える自動販売機。ま、最近は真夜中の場合でもコンビニエンスストアに売っていたりするけれど、そのコンビニに対抗しようとして自動販売機がサービス過剰になったら困ってしまうな。こっそり真夜中、誰にも知られないように買いに行ったのに、ジュースの自販機みたいに「まいど、ありがとうございま
す!」とか明るいお姉ちゃんの声で言われたりしたら恥ずかしいったらありゃしない。
さらに「ピコピコピコピコピコ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピーンッ!」真夜中の静まり返った通りに電子音が響きわたり「もう1箱当たり」が出たりしたら、なお恥ずかしい。

ま、そんなワケでふとそーゆー事を思い出して「そうだ!コンドーさんを購入する時の恥ずかしくない店4箇条を応用するのだ!」と言うことに気が付いた。
1.自分の住んでいるエリアから程良く離れた店
2.小さくて外から中があまり見えない店
3.基本的に客がいない店
4.枯れたじいさんか、ばあさんが店番をしている店
と、この4箇条を思い出した。

まずは自分の家から離れていると言うのは重要。別に犯罪を犯しているワケではないし、コンドーさんを買うのは男の身だしなみ。当然の義務なのだが、なるべくなら知っている人には知られたくない。それはコンドーさんだろうと、毛生え薬だろうと同じ事なのだ。
次に小さい店。さらに外から中が見えないと言うのも重要。やはり家から離れていたとしても知り合いに会わないとは限らない。その為の二重の予防措置なのです。とりあえず店の表側のガラスには中山美穂とか小泉今日子とか鷲尾いさ子とかタモリとかのポスターがベタベタ貼ってあって中が見えないと言うのが良心的な店なのだ。
そしてさらに基本的に客がいない店。当然ながらそのブツを購入したと言う秘密を知っているのを最小限度の人間にとどめておきたい。

最後のじじばばの店番。これが最終的にコンタクトを取る人物としては重要。これが若い女性の場合が一番恥ずかしい。恥ずかし度合いを、若い女性が「10」とするなら、次あたりに位置するのが中学生ぐらいの子供がいそうなおばさん「9」真っ昼間なんかにコンドーさんなんかを購入しようものなら「まっ!」とか思われそうで嫌っす。かなり昔、それでも年齢的には大人になっていたときコンドーさんを購入しようとした時に、思いっきり「まっ!」みたいな顔されてしまった経験がある。たしかに外見は若く見えて、当時も学生服を着たらそのまま高校生と言われそうな顔してたんだけど。
次がおにいちゃん「6」これは「いやいや、お互いどうにもこうにも大変っすねぇ」と言う感じで、照れつつも気持ちは一つ!みたいな感じがある。次がおやじ「3」この辺りだと、純粋に商売と言う意識もあるので、別にやましい気持ちも起こらずに堂々と買うのだ!と胸を張ったりする(張る必要もないが)で、最後がじじ&ばば「1」もう枯れきっちゃって「若いモンはええのぅ」ぐらいで、こっちも何気なく買えたりするのだ。

●フェイントじじい●
しかし、盲点もないわけではない。昔、コンドーさんを購入しようとした時に、その手の優良店を発見して意を決して店の中に入った時の事だった。店内では店番をする枯れきったおじじが一人。よし!第1段階クリアだ。これで勝ったも同然!と思ったのだが、目的物のコンドーさんが見あたらない。
ふと、おじじを見るとその、おじじの後ろ側の棚にいくつも陳列してあるじゃないすか。で、あんまりこーゆー物を購入するときは店の人とも口をきかず、目を合わせず迅速に購入!、と言うのが最大の理想なのだが、背に腹は代えられない。こっちは切羽つまっているのだ。ここで買わなくてはいけないのだ!と意味不明に焦ってしまった。

そして、ついに「すいません、それを下さい」とじいさんの後ろの物体を指さす私であった。じいさんは「あぁ」と小さくうなずいたかと思うと「どれがいいかな?」と丁寧にカウンターに全商品を並べ始めたのだよ。「げげげーっ!」これでは逃げるに逃げれない。ここに別の客が入ってきたら、カウンターに大量のコンドームを並べて吟味している男になってしまう。

僕はあわてて、その中で値段の手頃そうなのを示し「あ、これ」と平板な口調でじいさんに告げた。と、それで問題は解決したかの様に見えたのだが、じいさんはその箱を持ち上げて、その箱に書かれている文字をじっくりと眺め始めたのだ。「おぃおぃ早くしろよぉ」私は心の奥で大声で叫んでいた。しかし、じいさんはそんなの全然気にする様子もなく、文字をひとつひとつ目で追っていた。この間、実際には5秒ぐらいだったろうか、だが僕には5分にも感じていた。
もぉぉぉん、早くしてぇぇぇん。などと腰をくねらせて、おねだりをしたかった。
と、じいさんが突然カウンターから立ち上がった。
「おっ!」と思った次の瞬間、コンドーさんの箱を持ったまま店の奧に「おーい、これいくらだっけ?」と叫びながら消えていってしまった。僕は、カウンターの上にずらずら〜っと並べてある選ばれなかったコンドーさんと共に置き去りにされてしまった。
「・・・・・・・」

さらにまずい事に、この閑散としている店に客が入ってきたのだ。しかもおばちゃん。「あちゃ〜っ」と思いつつ、ここはなんとかごまかさないと。と考え、こ
ういう場合の常套手段で近くにある商品を手に取り「僕ちゃん関係ないもんね〜」的なポーズをとった。
この店は前述の項目の通りに狭い店なので、おばちゃんの視界にはすでにカウンターにずらっと並べてあるコンドーさんが入っているハズである。
そのカウンターの前には挙動不審の男。「まっ!」とか心の中で思っているハズである。もうバレバレなのだろうが「僕はただの通りすがりの者です」と言った顔で、身近にあった商品を手に取りその箱に書いてある文字などを読んでいた。
「えっと・・・・なる程、滋養強壮剤かぁ・・・・何々・・・」と、そこまで読んでさらに焦った。

手に持っているのはユンケル。しかもスーパー皇帝液!私はカウンターにズラズラッとコンドーさんを大量に並べて、栄養ドリンクを選んでいる完璧挙動不審の男に成り下がっていた。やべーっと思っていると、やっと店の奧からじじいが・・・・・・じじいじゃない!出てきたのは20代の女性。
じじいの孫娘といった感じの女性。
私は赤面しているのを感じながら、代金を払って逃げるような感じでそそくさと店を後にした。

この様に用意周到で入った店でもフェイントをかけられる事もある。だから(やっと話は元に戻る)毛生え薬を買うのにも気を抜けないのだ。毛が抜けてしまう程に気が抜けないのだ。

●薬局のおばば●
そこで、昔コンドーさんを購入した事もある店を選んだ。ここは入り口に中山美穂や小泉今日子が並び、店先にはタモリの旗が揺らめいていると言う、最大限に良心的な店なのだ。
その日、僕が入っていくとばあさんが店番をしていた。その薄暗い店内をゆっくり見渡すと、カウンターの右側にいわゆる毛生え薬系の黒い容器がいくつか並んでいるのが判った。

静かに確認をし、とりあえずフェイントの風邪薬などを手にし、本題を吟味する事にした。
「私は基本的には風邪薬を買いに来た客なんですよ。たまたま、店の中に毛生え薬なんで物が置いてあるから、へぇ〜こんなに種類あるんだぁって見ている客なんですよ。あくまでも買いに来たのは風邪薬なんですよぉ」と言う、設定でいどんでみた。
しかし、この毛生え薬業界というのは私にとっては初参入の場なので、どれが良いというのが判らなかった。ちまたでは(当時)109とか言う中国製の毛生え薬が利くとかって話を聞いていたのだが、あれは品薄でこんな場末の薬局にまでは登場していないようだった。

ま、ここは一発CMなんかでネイムバリューのあるヤツの中から最高峰を選ぶのが無難なのだろうな。
「うむ」と考えたが判らない。
それは当然の事で、周りで仮に使用している人が居たとしても「よかったよ」などとは言わない。そんな事を言った瞬間にハゲで悩んでいると言うことを世間様に知らせている事になるのだ。しかも、薬に頼っていじましいヤツと思われてしまうのだ。そんな事は誰も言わない。

そこで僕が手に取ったのは「不老林・フローリン」と言うヤツ。なんかしゃれた名前じゃないっすか。
よしよし。と、僕はそれを手に取ろうとした瞬間、店の奧にジッと潜んでいた店番のおばばが鋭く言い放った「それよりシデンカイっての方が利くって話だよ」なんと言うことだ。

僕は今日の今日と言う日まで、店の人間とはなるべくコミュニケーションを取らないように行動をしてきたのに、こんな場面で店の人の温かい言葉を聞くとは・・・・・。
くぅぅぅぅ!僕が今まで歩んできた道は間違っていたのかぁぁぁぁ!そして僕はそのおばばの言葉を信じて、その「紫電改・シデンカイ」と言うちょっと戦争臭い名前の毛生え薬を購入したのです。

おばばよ!この次また毛生え薬を買わなくてはならない時が来たら、この店に買いにくるからな!それまで死ぬなよ!と、心の中で泣きながら店を出た。

そして家でさっそく説明書通りに試してみた。毛根に染み込むように、付けた後でマッサージを施す。ま、この手のはそんな簡単に成果は出てこないから長期戦になるのかなぁ。とか思っていたが、困った事になってしまったのだ。
とにかく臭いのだ!
あの親父達が好んで付けるコロンとかポマード臭いのだ。昔っから、あの手の臭いって大嫌いで、何であんな臭いしてて大丈夫かな?と思っていた。そんなにおいのする液体を今、自分が自ら進んで頭に染み込ませているのだ。うぎゃぁぁぁ!くせーっ!

昔はきっと、あーゆーにおいを付けている人には、そのにおい自体は判らないものなのだ。と考えていたが、付けている自分もクサイとやはり感じるのだ。これは本当に参った。
結局、本当はそのまま寝て染み込ませるのが正しい毛生え薬の道らしいが、僕はどうにもこうにも我慢できずに寝る直前に頭を洗ってしまった。
くぅ、毛生え薬の道は厳しい。

ま、その毛生え薬が効いたのかどうかはよく判らないが、胃潰瘍が治ったの同時期に頭の方にも新しい毛が生え始めて、なんとかツムジもツムジとして認識できる物になり、今にいたっているのであります。

蛸/TACO

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